2019.02.25(最終更新日:2019.02.26)
セミナーレポート
【セミナーレポート】
事業構造が大きく変わるとき、人事部門は。
~富士フイルムの事例から学ぶ、変革過渡期の人事の在り方~
経営のグローバル化、テクノロジーの発展による産業構造の変化など、企業を取り巻く環境は激変し、多くの企業が変革を迫られています。中には、これまで企業の成長を支えてきた本業がシュリンクするという危機的な状況に見舞われ、新たな事業の柱の創出を一刻でも早く成し遂げなければならない企業もあります。
先の見通しが難しい中で、企業が経営目標を達成し成長していくために、人事は何をすべきでしょうか。
未知なる領域に挑んでいく時代に、人材マネジメントの方法はこれまでと同じでよいのでしょうか。
そこで、去る2月4日、「事業構造が大きく変わるとき、人事部門は。」をテーマに、パーソルキャリア主催の特別セミナーを行いました。講師にお迎えしたのは、学習院大学 経済学部 経営学科 教授 守島基博氏。変革を乗り切る際に人事は何を考え、何に取り組むべきか、学術的な面から提言をいただきました。
また、本業消失の危機に直面しながらも、変革を成功させ成長を遂げている富士フイルム株式会社より人事部長 座間康氏をお招きし、事業変革と人材育成の取り組みについてお話を伺いました。
守島先生によるイントロダクション
事業構造や戦略が変化するとき、人事は何をすべきか?
「富士フイルムとは、何をしている会社でしょうか?」
守島先生は、まず会場に問いかけました。20年前であればその名の通り、「写真フィルムの会社」が正解でした。
しかしデジタル化の波が押し寄せ、主力事業が縮小。現在では、化粧品や医療分野など、フィルム以外の領域に事業を拡げています。
守島先生は、会場にこう語りかけました。「これからの時代、そのような転換を迫られる日本企業は増加していくでしょう。大きな変革の中で、人事は何を考えねばならないのか。それが今回皆さんと一緒に考えていきたいテーマです」
人材マネジメントの目的は、経営目標の達成です。そして昨今、日本企業の事業構造や戦略は急速かつ大きく変革しています。
つまり、人事も変革が求められているのです。守島先生は、日本企業が人材確保に苦労している調査データも紹介しながら、「日本企業の人事は変革に対応するために、従来の採用や教育、配置転換の方法を変えていく必要があります」と強調しました。
「人」の意識や価値観の変化にも、人事は直面している
事業戦略の変革に加え、守島先生が「もうひとつの大きな変化」と提示したのが、「人視点」での変化です。以前のように「仕事第一、社命は絶対」という画一的な価値観が通用しない中で、どのように社員のモチベーションを高めていくのか。これも人事にとって難しい問題です。
さらに「人事の仕事を難しくする要素」として、守島先生は米国などの労働市場との違いを紹介しました。事業構造や戦略が変革する時、日本企業では労働者に対して「この事業はなくなるので、来週から出社しなくてもいい」ということができません。異なる事業への異動を打診することとなります。当然、嫌がる人材も出てくるでしょう。この状況をどう乗り越えていくのかが、人事としての問題です。これに対する守島先生の答えは、「結局は普段、人事や企業がその人材に対してどのように接しているかによる」ということ。普段から、人事が社員と信頼関係を作っておくことが重要なのです。
「雇用から非雇用」への流れも、大きな転換だと守島先生は言います。多くのミレニアル世代が、「終身雇用ではなく、自由な働き方を選択したい」という中では、雇用を前提とした制度や体系も変えていく必要があるのです。
そして守島先生は改めて、「事業構造、個人の価値観、雇用構造といった変革の中で、人事は何をすべきか。富士フイルムの座間さんのお話を通して考えていきたい」と会場に呼びかけました。
富士フイルムの変革と人材育成/座間氏
本業消失の危機を乗り越えた、富士フイルムの事業変革
守島先生の紹介を受けて登壇したのは、富士フイルム株式会社 人事部長の座間氏。富士フイルムが2000年頃に直面した本業消失の危機からの事業変革や、それに伴う人事の変革についてプレゼンテーションを行いました。
2000年当時、富士写真フイルム(当時の社名)は、「写真フィルムがメインの会社」でした。しかし、2000年以降、コアビジネスである写真フィルムの需要が急減。本業消失の危機に直面したのです。
しかし、富士フイルムはデジタル化への先駆性、技術力やブランド力、財務力を背景に、「第二の創業」として改革を進めていきました。そして2017年度の連結売上高ではヘルスケア事業や高機能材料事業などの事業が大きな事業の柱となりました。2000年当時の「写真フィルムがメインの会社」から、写真フィルム“以外”の事業を大きく伸ばしてきているのです。
こうした本業消失の危機からの変革を通じて、座間氏は「企業が生き残るためには、変化し続けなければならないと実感しています」と語ります。事実、富士フイルムはコーポレートスローガンとして「NEVER STOP」を掲げ、歩みを止めず前進していくといいます。
一方で座間氏は「会社が変わるためには、変わらないものを持ち続けることも重要」だと語ります。社員に共有するDNA、何か問題が起こった時に立ち返る拠り所となる原理原則、人から人へと紡がれていくマインドは、変わらず大事にしていくべきだというのです。そして、原理原則やDNAを紡いでいくカギを握るのは、「人材」に他なりません。「人材こそが、変革を実現させるための原動力」だと、座間氏は強調しました。
変革の原動力となる人材を、どのように育成したのか?
続いて座間氏は、富士フイルムがこの15年程において行ってきた人材育成について紹介しました。
まずは、「強いリーダーの育成」です。注目すべきは、30代後半~40代前半の課長層に行っている「リベラルアーツ研修」。この研修の重要性について、座間氏はこう語ります。「トップに近くなればなるほど、未知なる領域での判断を迫られる機会が増えていきます。答えのない中で決断をしていくには、リベラルアーツにより大局観や歴史観を養うことが役立つと考えています」。
そして、「人材シフト(ジョブローテーション)」。富士フイルムでは、社員に幅広い経験を促すために、事業や職種、機能軸を超えた大胆なジョブローテーションを実施しています。その中で「人事は、なぜこの異動が必要なのかを、一人ひとりの成長計画に寄り添って考える責任があります」と、座間氏は言います。
次に、「変化の中で活躍する社員の行動と姿勢(原理原則)の徹底」。富士フイルムの社員としての原理原則を可視化した「FF-WAY」、富士フイルムのあらゆる事業や職種に共通する仕事のステップ「STPDサイクル(See-Think-Plan-Do)」を、徹底的に社員に浸透させているそうです。
変革を実現するには、現場の第一線で活躍する「マネージャーの強化」が不可欠でした。そこで、ミドルマネージャーの意識改革を実施。経営の考えを、自分たちの言葉で部下に対して語ることができるよう、意識の浸透を行ったといいます。
さらに、未来の変革を担う「若手社員の基盤強化」にも力を入れていると、座間氏は話します。初期育成の成長プロセスにおいて身に付けるべき資質を言語化し、行動指標に落とし込み、指導員・上司と人事が伴走しながら若手の成長を促しているそうです。
企業が未知なる領域に挑むとき、人事は何をすべきか?
本業の危機に直面し、抜本的な事業変革を進めてきた富士フイルム。その一方で、人材教育には、変革に振り回されない「原理原則の徹底」を行ってきました。富士フイルムでは直近10年間の採用では新卒社員が80%以上であり、ベースにあるのは、「新卒一括採用」です。「新卒一括採用などの是非について、議論は色々あるでしょう。しかし、企業にとって安定採用は重要なシステムであり、長期的な視野に立って人材を鍛えていく『企業の教育力』は、日本経済にとって非常に大切だと思います」と、座間氏は熱弁しました。企業として、長期的な視点で原理原則を浸透させることで、社員のオーナーシップを養っていく、その「教育力」は、決して捨ててはならないものなのです。
そして座間氏は、「人事は、経営と事業のために存在します。そして、人事が立ち返るべき基本は、『良い人材を採用して、その人材をちゃんと育てる』、これに尽きます」と強調。 さらに、「会社と経営が大きく変革する中、社員たちは『次の日から違う商品を売らねばならない』、『先月とはまったく違う仕事をせねばならない』、といった事態に直面します。そのような未知なる領域に臨む“修羅場”の最中にある時、私たち人事が社員にしてあげられることは、社員が拠り所とできるような原理原則をしっかりと伝えていくことだと思います」と人事の矜持を語り、力強く締めくくりました。
守島先生と座間氏によるパネルディスカッション
プレゼンテーションを踏まえたセッション、そしてグループディスカッション
座間氏のプレゼンテーションの後は、守島先生と座間氏によるパネルディスカッションが行われました。
「事業構造が大きく変わるにあたり、社員がなぜ変革を自分ごととして受け止めたのか」
「大胆なジョブローテーションは、今の世の中にミスフィットなのではないか」
「『個』に配慮する企業という印象があるが、変革にあたり、社員一人ひとりをどのようにケアしていったのか」
「課長層に行っているという『リベラルアーツ研修』は、どのような成果が出ているのか」
など、守島先生は次々と鋭い質問を投げかけていきました。
それに対して座間氏は、一つひとつ丁寧に信条と経験に基づいた返答を行い、議論を深めていきました。
その後、参加者によるグループディスカッションを実施。各々のグループで、守島先生と座間氏の話を聞いて感じたことや、各社の問題意識について意見が飛び交いました。さらにセミナー終了後には登壇者を含めた懇親会を行い、変化の激しい時代において人事部門がすべきことについて議論に花が咲きました。
まとめ
「事業の変革」というと、人事も変わることばかりに気を取られがちです。しかし、座間氏のお話の中で何度も出てきたのは、「原理原則」や「普遍」という言葉でした。事業戦略や構造が大きく変革する中でも、振り回されず対応していくためには、拠り所となる「原理原則」を社員に根付かせていくことが重要だと信じ、富士フイルムはそのための人材育成に愚直に丁寧に取り組んできたのです。奇抜な制度を追い求めるだけでなく人事としてすべきことは、「良い人材を採用し、しっかり育てること」。まずは人事としての「原理原則」に立ち返ったからこそ、富士フイルムは変革と成長を遂げることができたのでしょう。
講師プロフィール
学習院大学 経済学部 経営学科 教授 守島 基博 氏
1980年慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。86年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より学習院大学教授、2018年より同大学副学長。
最近は、戦略的人材マネジメント論、特に企業の競争力に寄与する人材マネジメントのあり方を多様な側面から研究している。米国を中心とした海外研究専門誌の編集委員になっており、政府審議会などの委員参加も多数。
富士フイルム株式会社 人事部長
兼 富士フイルムホールディングス株式会社 人事部 グループ長 座間 康 氏
1987年富士写真フイルム株式会社(現富士フイルム株式会社)入社。「写ルンです」のマーケティング、大阪での国内営業を経験した後、人事部に異動。人事部では、人事異動、採用、教育等を担当する。
その後、中国に海外駐在し、メディカル事業の海外営業を経験し、帰国後、人事部に戻り、2016年より現職に至る。
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