2018.12.11(最終更新日:2019.01.18)
セミナーレポート
【セミナーレポート】
VUCA時代に躍進するリーダーシップの在り方とは
テクノロジーの指数関数的な発展やグローバル化など、企業を取り巻く環境が極めて速く変化していく「VUCA」の時代。不安定で不確実、かつ複雑で曖昧な状況の中、企業が持続的な成長を続けていくことは極めて困難です。そうした中、会社と社員との関係、リーダーとメンバーとの関係も大きな変化が見られます。「VUCAワールド」では、リーダーシップはいかに在るべきでしょうか。
こうした課題に向き合うために、パーソルキャリアは11月19日「VUCA時代に躍進するリーダーシップの在り方とは」と題したセミナーを、丸の内コンファレンススクエアエムプラス ミドルにて開催しました。講師として登壇したのは、『リーダーシップ3.0 ~カリスマから支援者へ』の著者である慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授/合同会社THS経営組織研究所代表社員小杉俊哉氏。そして、リーダーシップ開発の最高峰と言われる「GEクロトンビル」にてリージョナルラーニングリーダーを務める牛島仁氏。会場には、企業のリーダーや人事企画担当者などが集い、VUCA時代のリーダー像について活発な議論を行いました。
※登壇者の所属企業・役職等はセミナー開催時のものです。
リーダーシップの潮流/小杉先生
リーダーシップスタイルの変化
「リーダーという言葉から思い浮かべる人は誰ですか?」冒頭で小杉先生は会場に問いかけました。伝説の経営者、戦国武将、スポーツ監督など、さまざまな人物を思い浮かべるのではないでしょうか。
すると、小杉先生はもう1つ会場に問いを投げかけます。「カリスマでなければ、リーダーにはなれないのでしょうか?」これにはさまざまな意見がありますが、小杉先生は「必ずしもそうではない」と言い切ります。例えば、経営危機に陥り変革が必要な局面では、強いカリスマ性を持った「変革のリーダーシップ」が必要です。そう、“20世紀最高の経営者”と呼ばれたジャック・ウェルチのよう。しかし、「変革のリーダーシップには、リスクも伴う」と小杉先生は語ります。カリスマ性でうまく行くうちはいいのですが、失敗した時にどうするのか、方向性がずれたときに誰が意見できるのか、そして後継者問題も生じます。特にVUCAワールドと言われる今、「このやり方で間違いない」という絶対解はありません。
人それぞれ、さまざまな持論があるリーダーシップについて議論をするために、小杉先生はその時代を象徴するリーダーシップをバージョンに分けて整理して解説しました。専制君主型の「リーダーシップ1.0」、権限移譲型の「リーダーシップ1.1」、変革型の「リーダーシップ2.0」、そして、支援型の「リーダーシップ3.0」です。先の見通しがしにくく、試行錯誤でビジネスを創造していく必要があるVUCAワールドでは、カリスマ的リーダーというよりは、自律した個人を支援する「リーダーシップ3.0」が求められると、小杉先生は語ります。
リーダーシップ3.0「支援型」
何がなんでも収益を追求することがリーダーとしての条件だった20世紀は過ぎ去り、自社の利益だけを考えるだけでは持続的な成長はもはや難しい今の時代。ESGやCSV、そしてSDGsを経営戦略に取り入れる企業が増えているように、「リーダーの在り方も変化していく必要がある」と小杉先生は強調します。「リーダーは正しいことをしなければ、メンバーやステークホルダーに支持されません。高い精神性や人間味が必要です」それが、「リーダーシップ3.0」の姿です。
さらに小杉先生は「リーダーシップ3.0」との比較対象として、1960年代~1990年代初頭の日本企業に見られた「リーダーシップ1.5」を紹介します。会社と社員は価値観を共有するコミュニティに属する“運命共同体”であり、年功序列・終身雇用をベースとした経営を行っていました。そしてリーダーはその家長として、社員を幸せにする役割を負っていました。これは長らく世界のお手本と言われていましたが、「一方で多くの弊害を生んだ」と、小杉先生は語ります。運命共同体の意識が強過ぎて、個人の目的は不要、法令よりも会社のロジックが優先するような事態を招いてしまったのです。
小杉先生によると、「リーダーシップ1.5」と「リーダーシップ3.0」は、価値観を共有し同じコミュニティに属するという点では共通しています。しかし、運命共同体であるか否か、個人の自律性があるか否かが、大きく異なります。自律した個人の存在を大前提にしている「リーダーシップ3.0」では、リーダーはメンバーを上意下達で押さえつけるのではなく、ひとりひとりと向き合い、メンバーの自律性とモチベーションを高める支援が必要だと、小杉先生は説明しました。
また、リーダーシップ3.0(支援型)の例として、小杉先生は「サーバント・リーダーシップ」「羊飼い型リーダーシップ」「オープン・リーダーシップ」「コミュニティシップ」を紹介しました。
組織や環境で、リーダーシップは変化する
次に小杉先生は、「皆さんの会社、そして皆さん自身のリーダーシップはどのバージョンに該当しますか?さらに、その課題は?」をテーマに、グループディスカッションの時間を設けました。会場からは「オーナー企業はリーダーシップ1.0が強い」「女性リーダーはリーダーシップ3.0が得意な人が多い」など、さまざまな意見が飛び交いました。
会場の議論を踏まえて、小杉先生は改めて「現代は、一部のオーナー企業を除いては、支援型のリーダーシップが取り入れやすい。しかし、常にリーダーシップ3.0が理想で、その通りのことをすればいいわけではありません。その組織の成熟度合い、置かれた環境によって、リーダーシップの型は決まる場合があります」と強調し、講義を終えました。
VUCA時代におけるGEクロトンビルの変化/牛島氏
GEのリーダーシップ
小杉先生の講義を受けて、GEクロトンビルジャパンの牛島氏が登壇しました。クロトンビルは、GEの戦略・カルチャー発信基地であり、リーダーシップ開発の最先端です。牛島氏が「リーダーシップについて話す前に、まず考えてみたい」と提示したのが、リーダーシップとマネジメントとの対比です。リーダーシップを語る際、ともするとマネジメントは悪者になりがちですが、牛島氏は「両社は対立するものではなく、兼ね備えるもの」だと強調します。リーダーシップはビジョンを示しモチベートする“コンパス”、マネジメントは組織を効率良く前進させるための“時計”であり、どちらが欠けても経営は立ち行きません。その上で牛島氏は、「ただ、どちらが得意か、“利き手”はある」とし、GEではリーダーシップ寄りの人材が多いと話しました。
次に牛島氏は、VUCAワールドにおける変化について言及します。テクノロジーやビジネス、政治などあらゆることが指数関数的に変化する時代、リーダーシップの在り方も変わっていかねばなりません。しかしその中でも、GEには脈々と流れるリーダーシップ観があると、牛島氏は語ります。それは、「一人ひとり、全員がリーダー」だという考え方。また、GEのリーダーシップを表すキーワードとして、「Integrity」「Authentic Leadership」「Personal Leadership」の3つを紹介しました。リーダーシップは1つの型にとらわれる必要はなく、その人の中から湧き出る本質を大事にするということです。
VUCA時代の新しいリーダー“ピープル・リーダー”
「とはいえ、GEのリーダーシップスタイルは、その時のグローバルCEOに影響を受けます」と言う牛島氏。ジャック・ウェルチの時代は、4E(Energy, Energize, Edge, Execution)に象徴される強烈なリーダーシップでした。「しかし、カリスマリーダーに依存するのには、小杉先生がおっしゃる通りリスクがあります。ましてや“絶対”がないVUCAワールドでは、1人のカリスマに頼ることは危険です」と、牛島氏は語ります。
そこでGEは、部下を持つ社員のことを「ピープル・リーダー」と呼び、新たなリーダーシップスタイルを実践しようとしています。「強烈なパワーで統制を図るコマンド&コントロール型リーダーシップでは、これからの時代はうまくいきません。ピープル・リーダーに求められているのは、メンバーと対話して、信頼、尊重するエンパワー&インスパイア型リーダーシップです」とピープル・リーダーについて説明する牛島氏。GEではピープル・リーダーを育成するために、「People Leader Expectation」というトレーニングを実施しています。現在、GEではグローバルで約3万人、日本国内では約300人のピープル・リーダーがいるそうです。
クロトンビルにおけるカリキュラムの変化
続いて牛島氏は、「ここ数年の間に、クロトンビルのカリキュラムも大きく変わってきています」と言及。その変化の代表的なものを挙げました。例えば、「“教室型”の研修から、“デジタルラーニング”へ」、「“選抜型”の育成だけではなく、より“開かれた場”に」、そして大きな変化が、「“演繹的(Deductive)”な課題解決から、“帰納的(Inductive)”な解の追求へということ。これについて、牛島氏はこう説明します。「従来は、決まった課題・フレームワーク・答えがあり、それに沿った演繹的な解の出し方を教えていました。しかし、もはや絶対解のないVUCAワールドでは、リーダーは実際に起こっている課題から帰納的に解決策を編み出していかねばなりません。そこでトレーニングでも、多様な経験値を持つ参加者たちの知見を持ち寄って議論し、最適解をみつけていく即興性が必要となります。」これを象徴するのが、PowerPointのスライド数だと、牛島氏は言います。以前は、1日の研修でトレーナーは100枚以上のスライドを用意し、それに沿って研修を進めていました。しかし今は、1週間のトレーニングで5枚程度しかスライドを用意せず、代わりにホワイトボードやフリップチャートを使用するそうです。
最後に、牛島氏はクロトンビルの大きな特徴として「Leaders teaching Leaders」を紹介しました。「外資系企業では『Leaders Developing Leaders』と表現することが多いですが、GEでは『Develop』ではなく、あえて『Teach』を使います。なぜなら、GEのシニアリーダーたちは、実際にクロトンビルに足しげく通い、自ら教えているからです。ダイアログを行ったり、さまざまなケースを一緒に考えて行ったり、次のリーダーを育てるために直接『Teach』する、リーダー育成に対する強い意識を込めています。」時代の変化によってクロトンビルのカリキュラムは大きく変化していくものの、根本に脈打つものは変わらず大切にしていくと、牛島氏はプレゼンテーションを締めくくりました。
牛島氏のプレゼンテーションを踏まえ、会場では再びグループディスカッションを実施。その後、小杉先生、牛島氏、司会の須東氏、参加者を交えた質疑応答を行いました。さらにセミナー終了後には登壇者を含めた懇親会を行い、VUCA時代のリーダーシップについて議論を深めていきました。
まとめ
「リーダーシップ」という言葉から、私たちはどうしてもカリスマ的で絶対的なリーダーの姿を想起しがちです。しかし今は、変化のスピードが速いだけではなく変化のパターンも見えにくい時代。完璧な未来絵図を描きメンバーに指示をするカリスマ型リーダーよりも、メンバーの自律性を引き出し共にこの混沌の中を進む支援型リーダーの存在が必要だということが理解できました。その潮流は、最先端のリーダーシップ開発を行うGEクロトンビルにも顕著です。“コマンド&コントロール”から“エンパワー&インスパイア”へ、リーダーシップの在り方が大きく変わっています。しかしながら、そこには時代が変わっても決して変わらないGEならではの哲学もあります。自社でリーダーシップ開発を検討する際、「自社らしさ」と「時代の変化」双方を考えることが大切でしょう。
講師プロフィール
慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授
合同会社THS経営組織研究所代表社員
小杉俊哉氏
早稲田大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。NEC、マッキンゼー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長を経て独立。元慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授。
元立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授。ふくおかフィナンシャルグループ/福岡銀行、エスペックなどの社外取締役を務める。著書に『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーシップ3.0 ~カリスマから支援者へ』(祥伝社新書)など。
GEクロトンビルジャパン リージョナルラーニングリーダー
牛島仁氏
AIGのニューヨーク本社にリーダーシッププログラム生として入社し、日本支社人事部にて採用・評価制度・海外人事等を担当。人事企画マネージャー、人事課長を務めた後、DHLジャパン株式会社に人材・組織開発の責任者として入社。2010年より2年間、ドイツ本社コーポーレート人事にてシニアエクゼクティブオフィサーの人材開発スペシャリストとして勤務。
2014年より現職。米国ローレンス大学卒。コロンビア大学にて国際教育開発学修士。
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