2024.10.01
中途採用のキホン
求人票や求人広告などに掲載する際の、業務内容や休日、賃金などの記載情報を「募集要項」と言います。多くの求職者が募集要項を見て応募することや、入社後のミスマッチ・トラブル防止の観点からも、募集要項の書き方や注意点を知りたい人事・採用担当の方もいるのではないでしょうか。
この記事では、募集要項の概要や必ず記載しなければならない事項から、採用までの流れをご紹介します。募集要項のテンプレートも掲載していますので、自社で作成する際の参考にしてください。
募集要項とは
採用における「募集要項」とは、求人広告やハローワークの求人票などに記載する、応募条件や業務内容、賃金などの求人情報のこと。英語では「Job Descriptions」などと言います。求人サイトや企業によっては「応募要項」「募集概要」「募集要件」などと表記される場合もありますが、いずれも募集要項と同じものです。
まずは、募集要項の概要や求人票との違いについて押さえましょう。
募集要項について
多くの求職者は複数社の募集要項を比較した上で応募先を検討するため、企業にとっては自社の第一印象を決めるものでもあります。採用活動を成功させるには、自社の正確な情報を伝えながら、いかに効果的な募集要項をつくるかが大切です。
なお、必須の記載項目は法律で定められており、その他の項目やフォーマットに大きな差はありません。簡潔な内容の記載では他社との差別化が難しいため、表現を工夫して魅力的な募集要項を作成しなければなりません。後ほど詳しくご紹介しますが、採用時だけでなく将来の予定も含めて情報を記載することで、企業の安定した人材の採用と労使間トラブルの予防が期待できるでしょう。
求人票との違い
「求人票」とは、企業がハローワークや人材サービス会社、大学・専門学校の就職課などに提出する、求人募集の書類のこと。求人票には「募集要項」に「企業理念」や「アピールポイント」などのさまざまな要素が加わるため、「求人票の中に募集要項が含まれる」とも言えるでしょう。ただし、求人票の中でも募集要項がメインとなる情報のため、求人票と募集要項を同じ意味合いで取り扱う場合もあります。
最低限明示しなければならない項目
職業安定法や職業安定法施行規則によって、募集要項に必ず記載しなければならない項目が定められています。これらは自社サイト、求人情報サービス、ハローワークといった求人媒体や雇用形態にかかわらず、必ず明示する必要があります。なお、2024年の法改正によって、明示しなければならない労働条件に「従事すべき業務変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期労働契約を更新する場合の基準」が追加されました。
ここからは、必ず記載すべき項目について詳しく見ていきましょう。
※参考:厚生労働省「求人企業の皆さま 募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」
①業務内容・従事すべき業務の変更の範囲
業務内容では、応募者に実際の業務をイメージしやすいよう正確に記載します。詳細な業務内容を記載することで入社後のミスマッチを予防できるでしょう。以前は雇入れ直後の業務のみを記載していれば問題ありませんでしたが、2024年の法改正によって、「変更の範囲」も記載する必要があります。将来の配置転換など今後の見込みも含め、業務が変わる可能性がある場合は記載しましょう。
②契約期間
契約社員やパート・アルバイトといった非正規雇用の求人では、トラブルを防ぐために、契約期間を明示します。2024年の法改正によって、更新の有無だけでなく、更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)も記載することとなっているため、注意が必要です。正社員(正規雇用)の求人でも、求職者の誤解を避けるために「期間の定めなし」と記載することがあります。
③試用期間
試用期間の明示は、2018年の職業安定法の改正によって追加されたルールのため、記載漏れがないように注意しましょう。試用期間の有無のほか、「●カ月」というように期間を記載します。
④就業場所・就業場所の変更の範囲
入社後に業務を行う場所を「就業場所」として記載します。以前は雇入れ直後の就業場所のみを記載していましたが、2024年の法改正以降は、転勤や配置転換など別の場所での勤務が想定される場合に、「変更の範囲」も明示することがルール化されています。
⑤就業時間・休憩時間
始業・終業の時刻と、休憩の開始・終了時刻を記載します。時刻による一斉休憩ではない場合は「休憩1時間」などと記載する場合もあります。変形労働時間制(交替勤務やシフト制など)の場合は、求職者が働き方をイメージしやすいように、就業時間のパターンをいくつか記載するとよいでしょう。労働基準法の規定により労働時間(就業時間から休憩時間を引いた所定労働時間)に応じた休憩時間数が定められているため、法律に違反していないかを確認することも重要です。
⑥休日
「土日祝」「4週6休」「年間●日」「夏季・年末年始」など、曜日や日数を具体的に明示します。休暇について明示する必要はありませんが、独自の休暇制度がある場合は「●●休暇あり」というように記載するとよいでしょう。
⑦時間外労働
時間外労働(残業)の有無を記載します。時間外労働がある場合は、月の平均時間や繁忙期なども明示するとよりイメージが湧きやすいでしょう。裁量労働制を導入している場合は、「企画業務型裁量労働制により、●時間働いたものとみなされます」といった記載が必要です。
⑧賃金
賃金には、月給・日給・時給などについて、実際に支払う基本給を記載します。あいまいな書き方は労使間トラブルになりやすいため、実態からかけ離れた内容にならないようにすることが重要です。各種手当やインセンティブなど、条件によって支給するものは、基本給と分けて記載しましょう。
試用期間と本採用で賃金が異なる場合は、試用期間中の賃金と期間も必ず記載します。固定残業代を採用する場合は、「基本給(残業手当を除く額)」「あらかじめ固定残業代として支払う時間外労働時間と金額」「固定残業代として払われている時間を超えた場合に割増賃金を追加で支給する旨」の記載が必要です。
⑨加入保険
健康保険、厚生年金保険、雇用保険といった加入保険も、募集要項に必ず記載します。正社員だけでなく、労働時間によってはパートやアルバイトでも保険加入が必要となるため、労働条件を確認して、記載漏れがないようにしましょう。社会保険は法律により実施が義務付けられている福利厚生(法定福利厚生)のため、募集要項の様式によっては記入欄が「加入保険」ではなく「福利厚生」となっていることもあります。
⑩受動喫煙防止措置
職業安定法施行規則の改正(2020年施行)により、募集要項への明示が義務付けられた項目です。労働者の「望まない受動喫煙」を防止することが目的のため、就業場所に喫煙可能なスペースがある場合は、具体的な情報を記載します。
⑪募集者の氏名または名称
2018年の法改正で追加された必須項目で、実際に求人募集をしている企業名や人物の氏名を記載することとなっています。グループ企業の子会社やフランチャイズなどの募集でも、求人を行っている企業と親会社が混同されるような、誤解を招く表記はできません。求職者が、採用後に誰と雇用契約書を交わすのか把握できるよう、正確に記載しましょう。
募集要項に記載してはいけない項目
厚生労働省は、「応募者の基本的人権を尊重すること」「応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと」の2点を公正な採用選考の基本として、採用活動を実施することとしています。
企業が見るべきは職務遂行のための適性や能力で、関係ない事項について記入や回答を求めることは、企業側が採用基準とするつもりがなくとも差別につながる恐れがあるため、募集要項に記載してはいけません。違反した場合は行政から職業安定法違反で改善命令が出される可能性があり、この改善命令に従わない場合には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるリスクもあるため、募集要項を作成する際は、十分注意しましょう。
募集要項に記載してはいけない事項のうち主要なものを4つ、解説します。
性別による制限
労働施策総合推進法(旧・雇用対策法)と、男女雇用機会均等法を根拠として、性別によって募集や採用を制限することは禁止されています。例えば、募集要項に「営業マン」「男性のみ」「主婦歓迎」などといった、性別を限定するような職種や文言の使用はできません。退職した男性社員の欠員補充であっても、男性に限定した募集はできないため、注意しましょう。ただし、法律や風紀上・防犯上の理由で制限が必要とされる業務(助産師、更衣室のスタッフ、警備員など)や、すでに男女差が生じており是正を図る場合などは、例外的に性別を限定した求人募集が可能です。判断に迷う場合は、管轄の都道府県労働局またはハローワークにご相談ください。
年齢による制限
2007年改正の雇用対策法により、どの求人媒体でも、応募者を年齢で制限することは禁止されています。「長期勤続によるキャリア形成」や「定年年齢」などによって一部例外(合理的な制限)は認められているものの、原則として、業務内容に関係なく年齢を限定した募集はできません。募集要項では年齢不問としながら、面接や書類選考で年齢を理由に合否を判断することも法律違反となるため、人事・採用担当は注意が必要です。
国籍や出身地などに起因する差別表現
国籍や出身地などは、求職者本人の能力とは関係なく、人種や居住地域を限定した表現は就職差別につながります。具体的には「●●県出身の方限定」「日本人のみ」「外国人は対象外」などのほか、「●●人歓迎」 といった表現も差別と捉えられる恐れがあります。高度な英語能力が求められる就業場所でも、「アメリカ人並みの英語力」といった表現はせず、「ネイティブと同等」など、特定の国や地域に限定しない表現で記載しましょう。
最低賃金を下回る以下の給与
最低賃金は法律で定められており、特定の産業を除きすべての職種・産業に適用されます。金額は都道府県によって異なりますが、求人を行う際は最低賃金を上回る額を記載する義務があります。最低賃金は毎年10月に改定される上、最低賃金を下回る給与(賃金)で働かせることは最低賃金法違反となるため、募集要項を作成する前に最新情報を確認しましょう。
募集要項のテンプレート
募集要項のテンプレート例をご紹介します。実際の項目数や内容は、求人媒体や各企業の実態などによって異なります。
業務内容 | 雇入れ直後:一般事務(社内文書の作成・管理、社会保険処理、電話・来客対応、備品管理など) 変更の範囲:製造を除く当社業務全般 |
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応募資格 | 高専・短大卒以上 Word・Excel(中級程度、ピボットテーブル必須) 社会保険の処理経験者優遇 |
試用期間 | あり(入社後3カ月間) |
就業場所 | 雇入れ直後:本社(東京都●●区●●1-2-3 ●●ビル5階) 変更の範囲:埼玉支社、長野支社(リモートワーク応相談) ※本人の希望と適性、事業計画に基づき決定します |
就業時間 | 9:00~17:00 |
休憩時間 | 12:00~13:00 |
休日・休暇 | 休日:完全週休2日制、年間休日114日 土日、祝日、年末年始(12月30日~1月3日) 休暇:夏季休暇、年次有給休暇(初年度10日間)、慶弔休暇 |
時間外労働 | あり(月平均20時間 ※20●●年度実績) |
賃金 | 月給:基本給20万円(ただし試用期間中は基本給18万円) 昇給:年1回 賞与:年2回(※20●●年度実績3.0カ月) 諸手当:通勤手当(上限2万円)、家族手当、住宅手当、リモートワーク手当 ※残業代は別途支給 |
福利厚生 | 慶弔見舞金、スポーツクラブ利用補助 |
加入保険 | 雇用保険、労災保険、厚生年金、健康保険 |
受動喫煙防止措置 | オフィス内禁煙(入居ビル内に喫煙所あり) |
応募方法 | 応募フォームにて必要情報をご入力ください。エントリー確認後、次の選考をご案内します |
募集者の名称 | 株式会社●●●● |
法律によって明示しなければならない内容が決められているため、項目や形式に大きな違いはありません。賞与や諸手当、休暇、福利厚生を、明示する義務はありませんが、自社の魅力を伝えてより多くの応募者を集めるために、求人媒体によっては記入欄が設けられていることもあります。
近年は、求職者が給与だけでなく休日数や休暇制度を重要視する傾向にあるため、年間の休日日数や独自の休暇制度などを具体的に掲載すると、求職者にアピールできるでしょう。賞与・昇給・昇進については、回数や前年度実績などを記載すると、求職者が年収をイメージしやすくなります。その他、最寄駅から就業場所までの所要時間、リモートワークの可否など、実際に働くことをイメージしやすい内容を記載するのも効果的です。
採用までの流れについて
募集要項の作成は、あくまで採用フローの一部であり、実際には企業方針や採用戦略を踏まえた上で取り組む必要があります。ここでは、採用フロー全体について解説します。
採用計画
まずは採用計画を立てます。採用計画とは、企業の経営方針や事業計画を遂行するために立案する計画のこと。具体的には、以下の流れで進めていきます。
①採用目的を明確にする
②採用要件を決定する
③採用スケジュールを設計する
④選考フローを構築する
⑤採用チャネル(手法)を決定する
募集・応募
募集にはいくつかの方法がありますが、主として以下が挙げられます。
● ハローワーク・求人サイトに求人情報を公開する
● 自社の採用サイトで募集要項を公開する
● 社内のイントラネットで情報を公開し、リファラル採用(社員に候補者を紹介してもらう手法)に活用する など
いずれの方法においても、採用工数を削減しながら採用後のミスマッチを防ぐために、「応募してくれる人をいかに集めるか」が重要です。求める人材像を定義し、募集要項の記載内容を工夫するとともに、自社の社風や価値観などを意識した情報公開を行いましょう。
書類選考・筆記試験
書類選考では、応募者から提出された履歴書やエントリーシート、職務経歴書などから応募者のスキルや経験などを精査し、次の選考工程へ進めるかどうかを判断します。この他に、筆記試験や適性検査を実施する場合もあります。どのような人材が自社にマッチするか、採用後のことをイメージしながら選ぶのがポイントです。
面接
面接の回数は企業によって異なりますが、「1次面接(採用担当者)→最終面接(部門責任者)」というように、複数回実施するのが一般的です。形式は、オフラインによる1対1の面接やWeb面接を行う企業も増えています。
面接は、自社が求める人材像と合致しているか見極めると同時に、自社の魅力付けを行い、入社への意向を高める場でもあります。面接官の対応や会社の雰囲気も入社意思に影響するため、「受け付け時の対応を丁寧に行う」「高圧的な態度を取らない」など、意向の熟成を図ることが大切です。
入社承諾・入社
最終選考で合格した応募者には、条件を提示して入社の承諾をもらい、労働条件通知書の提示などの入社手続きを進めます。入社辞退を防ぐために面談を実施し、労働条件の擦り合わせや業務内容の確認を行う企業もあります。
採用が決定した応募者は、新しい職場への期待ばかりでなく、不安を抱えることもあるでしょう。応募者の入社意思が固まるように、「メールで自社情報を発信する」「プレセミナーを実施して同期入社者の交流を深める」など、入社予定者のフォローを行うことも大切です。
まとめ
募集要項は、応募者との最初の接点ともなる重要な文書です。必ず記載しなければならない項目や避けなければならない表現を順守するとともに、ルールの範囲内で他社との差別化を図り、自社の魅力が伝わるような募集要項を作成する必要があります。
入社後のミスマッチを防ぐために、自社が求める人材像なども募集要項内に落とし込み、採用の成功につなげましょう。
(監修協力/社会保険労務士 寺島有紀)
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